敷居

レコーディングスタジオで生きる

 自分の生き場所として、ライブハウス、コンサートホールに匹敵する所に、レコーディングスタジオがある。私は幸運にも、最初に所属したバンドが相次いでレコーディングをした。ゆえに不幸にもヘタクソなころの録音が残っている。
 それはともかくも、良かったことは、環境の整ったスタジオでマルチ・レコーダーに録り、一つひとつの楽器を別々にチェックできたことだ。これによりアンサンブル内において自分がどんなことをやっていて、どんな音色で、どれだけリズムが悪いか、ということを思い知った。そしてそれを最高級のオーディオ装置をもって聴くことができた。今は、MTR、ハードディスク・レコーダーなどで、個人レベルでも同様のことができるようになったが、レコーディングスタジオの良さは、音質・スケール共比較にならない。
 自分たちのグループによるレコーディングの他に、スタジオミュージシャンとしての場合もある。人気歌手らのバックを務めたりするこの仕事は、プロデューサーやアレンジャーから指名を受けての場合もあれば、人材派遣会社のように登録して、スケジュールを調整してもらって出向く場合とがある。1〜2度予定が合わず断ったりしていると、もう次からは連絡が来ない、し烈な社会だ。

スタジオの仕事
 スタジオに入ってその場で譜面を渡され、初見で弾く。読譜力と安定した音色・リズムが要求される。ウラをかえせば、それ以上のことを要求されない。劇伴(劇中曲の演奏)などの場合は、一枚の譜面でいくつものバージョンを録ることがある。譜面とは違う進行で、リズムで、キーなどで。もたもたしていたらついていけない。流れ作業。
 たしか二十歳の時、スタジオミュージシャンとしての依頼を初めて受けた。当時住んでいた千駄ヶ谷から東銀座のスタジオまで、買ったばかりのフェンダーのギターアンプとギターを持って、まだ免許を持っていなかったのでタクシーを使い、往復6千円もかけて向かった。ギャラは時給4千円/2時間拘束で8千円だった。おまけに行ったらアンプはあった。これでは採算が合わぬとあわて、即座に教習所に通い始めた。
 こういう「お仕事」としてのスタジオワークは別にして、自らのグループでスタジオ入りすると、私は途端に元気になり、興奮する。音楽が絵のように見えてきて、アイディアも浮かぶ。スタジオが好きなのだ。
ライブハウスで生きる
 20年前、私の活動のしはじめは、もちろんライブハウスからであった。ここも厳しくも楽しい場所である。スタジオとは違い、失敗を恐れず何でも試すことができる。聴衆のパワーに自分の予期せぬ能力を引き出されたりもする。
 ライブミュージシャンにもいろいろなことが要求される。強い自己主張(何をやりたいかをはっきりさせる)、協調性(人の音を良く聴く)、フットワーク(どこにでも楽器持参で行く)、動員力(自己宣伝)、耐乏力(楽士は食わねど高楊枝)、ETC。
 人間は、苦手なこと嫌いなことにぶつかると、辛いが為それを否定したり、抜け出すために必死で自分のやり方を見つけたりして生き延びる。特にライブにおいては、「 自分はこうだから」「楽しいから、気持ちいいから」と開き直ったりもする。また、「うけること」「その場をしのぐこと」を優先し、それを繰り返していくことで、そのとおりの人間になってしまったりもする。よほどしっかりした方向性と目的をもっていないと、流され、演奏が荒れて行く。ここがミュージシャンとしての質と品格を問われるところである。練習3対ライブ1、と私も師匠に言われてきた。
敷居
 ライブハウスは、意外に誰でも出られる。実力が全てというわけでもなく、人気、コネ、動員力、営業力なども作用する。出る前は、ものすごく高かったライブハウスの敷居も、出るようになってしばらくすると、何でもない当たり前の居場所に感じられてくる。ここでもへたをすると、出た、出ているということに安住して、いつまでも同じレベルの演奏を繰り返してしまう危険もある。成長しないミュージシャンは活動する必要は無いのである。ましてや、人前で演奏し、お金を頂いてまで。
 演奏が記録となって、それを商品化していくレコーディングスタジオでの仕事は、クウォリティの点では、ライブハウスより敷居が高い。売り物である「音楽」を生産する場所だからだ。スタジオでのミスや至らぬプレイには、付ける説明はない、商品価値ゼロなのである。ライブでのそれは、不可抗力、外圧(お客、店からの)、価値観の相違、バンド内の相互関係など、いろいろな理由をもっての言い訳がし易い。このようにライブは、生きた音楽を聴ける最前線であることの反面 、曖昧さや無責任さも混在する。
 私がここで言いたいのは、“喉元過ぎれば熱さ忘れる”感覚でライブをし続けるのではなく、スタジオの時のような確実さと厳しさをもって臨みたいということだ。レコーディングにも耐えうるクウォリティ、そして、パワーと個性溢れるプレイでライブを魅了する。
 厳しさと開放感、そのバランスは難しい。そして、魅力ある音楽かどうか、それは世の中が決めてくれる。97/2/7

copyright(c)Hiroki Koichi,1997

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